企業価値担保権
~「将来キャッシュフロー評価」と「特別に緊密な関係」を実装する~
企業価値担保権の創設は、中小企業金融の構造的転換を迫るものです。企業価値担保権の活用は、多数行取引から特定の金融機関との特別に緊密な関係、すなわち金融機関が企業経営への規律付けや支援に主体的に関与する「デットガバナンス」の再構築を意味します。
この転換は、中小企業金融の収益構造にも大きな変化をもたらします。特別に緊密な関係を前提とした将来キャッシュフローに基づく融資慣行の確立や、継続的なモニタリングによるリスクの早期捕捉と適時の対応を通じて、信用コストは低減し、その効果を格付・引当に適切に反映することが求められます。また、多数行取引から特定の金融機関への取引集約により、貸出残高あたりの管理効率は向上し、貸出経費も低減します。これらの結果、ポートフォリオの大宗を占める中小企業金融の収益構造が改善し、ROEやPBRの向上を通じて金融機関自身の企業価値向上へと結びつきます。
金融機関が取組むべき本質的な課題は二つです。第一に、将来キャッシュフローを的確に見極める力の獲得。第二に、企業との特別に緊密な関係を構築する力の獲得です。
もっとも、これらの力は理念を掲げるだけでは獲得できません。将来キャッシュフロー評価や特別に緊密な関係の構築による事業の将来像の共有といった取組みが、格付制度の中で正当に評価されてはじめて現場の行動は変わります。格付は与信方針や決裁権限、業績評価に至るまで銀行業務の隅々に組み込まれ、行員の行動様式やインセンティブを方向付けているからです。
RDBは、この課題に対し、《RDB成長性評価モデル》および《RDB予兆・変調検知モデル》の二つのソリューションを提供しています。2025年7月に金融庁が公表した「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について」が示す三つ目の選択肢である、「従来からの日本の貸倒引当金の見積もり方法をベースとした考え方」に即して開発しています。
具体的には現行の格付モデル(デフォルト判別モデル)による評価を一次評価とし、二次評価で《RDB成長性評価モデル》により将来キャッシュフローを評価、三次評価で《RDB予兆・変調検知モデル》により取引関係の実態を評価し、最終格付・債務者区分を決定する枠組みです。
この枠組みにより、将来キャッシュフローの創出力と取引関係の深度という、従来の格付モデルでは捕捉できない要素を、格付・債務者区分に体系的に反映することが可能となります。すなわち、企業の将来性と金融機関の関与の実態を、債務者の信用力評価にビルトインします。
また、本体系は既存の格付制度を前提としているため、大幅な制度変更やシステム対応を伴うことなく導入可能であり、現場の実務に無理なく組み込むことができます。さらに、モデルの活用により評価の客観性と事後検証可能性が確保され、格付運営の適切性・一貫性を担保することが可能となります。その結果、将来キャッシュフローを見極める力と、企業との信頼関係を深める取組みが、評価とインセンティブの両面から一体的に促進されます。
企業価値担保権は、単に新たな担保手段を提供するものではなく、金融機関の与信行動そのものの転換を促す制度です。その実効性は、将来キャッシュフロー評価と特別に緊密な関係の構築を、いかに格付制度の中に実装できるかにかかっています。
RDBは、これらを具体的な業務体系として提供し、企業価値担保権を実務の中で機能させるとともに、事業金融の再構築を支援します。
